医療法人会計基準とは?適用対象・病院会計準則との違い・計算書類をわかりやすく解説

「自法人は医療法人会計基準の適用対象なのか知りたい」「病院会計準則と何が違うのか分からない」
医療法人の理事長・事務長・経理担当者の中には、こうした疑問を抱えている方も少なくないのではないでしょうか。
医療法人会計基準は、一定規模以上の医療法人に強制適用される会計ルールであり、対象になれば貸借対照表・損益計算書の作成方法や公認会計士監査への対応など、経理業務に大きな影響が生じます。
本記事では、医療法人会計基準について以下の内容を解説します。
- 制定の経緯と適用開始時期
- 適用対象となる法人の規模要件
- 病院会計準則との違い
- 作成すべき計算書類の内容
- 押さえておくべき特有の会計処理
- 対応を進める際のポイント
自法人が適用対象になるかどうかの判断や、実務対応を検討する際の参考としてお役立てください。
医療法人会計基準とは?基本情報
医療法人会計基準は、一定規模以上の医療法人が貸借対照表・損益計算書を作成する際の会計処理方法を定めた省令です。
基本情報として、次の3点を押さえておきましょう。
- 制定の経緯(四病協案→平成27年医療法改正→平成28年厚生労働省令第95号)
- 法的根拠と適用開始時期
- 会計基準・運用指針・Q&Aの3層構造
それぞれ順に解説します。
制定の経緯(四病協案→平成27年医療法改正→平成28年厚生労働省令第95号)
医療法人には長らく統一的な会計基準が存在せず、平成26年3月に四病院団体協議会(日本病院会・日本精神科病院協会・日本医療法人協会・全日本病院協会)が取りまとめた会計基準に関する検討報告書が、「一般に公正妥当と認められる会計の慣行」の一つとして参考にされてきました。
その後、平成27年9月28日公布の医療法の一部を改正する法律により、医療法人の経営の透明性確保を目的に、一定規模以上の医療法人に対する会計基準の適用と外部監査の義務化が定められました。
これを受けて平成28年4月20日、医療法人会計基準(厚生労働省令第95号)が公布され、同日付で運用指針(医政発0420第5号)も発出されています。
法的根拠と適用開始時期
医療法人会計基準は、医療法第51条第2項および医療法施行規則第33条の2を法的根拠としています。
適用開始は平成29年4月2日以後に開始する会計年度からで、3月決算の医療法人であれば平成30年4月始まりの事業年度(平成31年3月期)から対象になる計算です。
会計基準・運用指針・Q&Aの3層構造
実務対応にあたっては、次の3つの文書をあわせて確認する必要があります。
- 医療法人会計基準(省令本体):会計処理の基本原則
- 運用指針(医政発0420第5号):様式や作成方法の詳細
- Q&A(平成30年3月30日付事務連絡):適用判定や簡便法の運用など実務上の論点
とくにQ&Aは、規模判定の基準年度や注記の書き方など、省令・運用指針だけでは判断しづらい実務上の疑問点を補足する内容になっており、厚生労働省が公表しているQ&Aの確認が欠かせません。
医療法人会計基準の適用対象となる法人
医療法人会計基準は、すべての医療法人に一律適用されるわけではなく、負債総額や事業収益の規模によって適用の要否が分かれます。
判定は次の順序で確認すると整理しやすくなります。
- 社会医療法人債を発行しているか(発行していれば規模を問わず強制適用)
- 社会医療法人に該当するか(該当すれば負債20億円以上または事業収益10億円以上で強制適用)
- 一般の医療法人か(負債50億円以上または事業収益70億円以上で強制適用)
いずれにも該当しなければ適用義務はなく、病院会計準則などを任意で参照する形になります。
以下、それぞれの要件を詳しく見ていきましょう。
負債50億円以上または事業収益70億円以上の医療法人
一般の医療法人については、最終会計年度の貸借対照表における負債の部の合計額が50億円以上、または損益計算書の事業収益の部の合計額が70億円以上のいずれかに該当する場合に、医療法人会計基準の適用が義務付けられます。
社会医療法人(負債20億円以上または事業収益10億円以上)・社会医療法人債発行法人
社会医療法人については、一般の医療法人よりも低い基準(負債20億円以上または事業収益10億円以上)で適用対象となります。
また規模にかかわらず、社会医療法人債を発行している社会医療法人もすべて適用対象です。
適用規模は「直前会計年度」の数値で判定する
適用の要否は、直前(最終)の会計年度における負債総額・事業収益の数値で判定します。
基準をまたいで規模が変動する年度の取り扱いについても、Q&Aで確認しておくと安心です。
適用対象外の医療法人(一人医師医療法人など)が採用する会計ルール
一人医師医療法人など上記の基準に該当しない医療法人には、医療法人会計基準の適用義務はありません。
ただし会計処理そのものが不要になるわけではなく、医療法上「一般に公正妥当と認められる会計の慣行」に従う必要があります。
具体的には、四病協の会計基準や病院会計準則、中小企業の会計に関する基本要領などを参考にするケースが一般的です。
任意で医療法人会計基準に準拠しておくことで、経営情報等報告制度との整合性が取りやすくなったり、金融機関への説明資料として活用しやすくなったりする点もメリットといえます。
医療法人会計基準と病院会計準則の違い
医療法人会計基準としばしば混同されるのが病院会計準則です。
両者はいずれも医療分野の会計ルールですが、対象や位置づけが異なります。
| 比較項目 | 医療法人会計基準 | 病院会計準則 |
|---|---|---|
| 対象単位 | 医療法人という法人全体 | 病院・診療所という施設単位 |
| 適用形態 | 一定規模以上は強制適用 | 任意適用(強制力なし) |
| 制定・改正の経緯 | 平成28年(2016年)制定 | 昭和40年(1965年)制定、平成16年(2004年)に全部改正 |
| キャッシュ・フロー計算書 | 作成不要 | 作成が求められる(新基準) |
| 根拠 | 医療法第51条第2項 | 厚生労働省医政局長通知 |
医療法人が複数の施設(病院・診療所)を運営している場合、法人全体の財政状態を示す医療法人会計基準と、各施設の運営状況を示す病院会計準則の両方の作成が必要になるケースもあり、それぞれの位置づけを理解しておくことが重要です。
医療法人会計基準で作成する計算書類
医療法人会計基準の適用対象法人は、次のような計算書類を作成する必要があります。
- 貸借対照表
- 損益計算書(事業損益の3区分と事業費・本部費)
- 注記・附属明細表・純資産変動計算書
- 事業報告書・財産目録・関係事業者との取引状況報告書との関係
それぞれの内容を解説します。
貸借対照表
医療法人会計基準第6条に基づき、千円単位で表示します。
医療機関債など医療法人特有の勘定科目があるほか、持分の定めのある法人・持分の定めのない法人・社会医療法人など、法人形態によって純資産の部の区分方法が異なる点に注意が必要です。
損益計算書(事業損益の3区分と事業費・本部費)
損益計算書は、事業損益・経常損益・純損益の3段階で表示します。
事業損益はさらに、本来業務事業損益・附帯業務事業損益・収益業務事業損益の3区分に分けて表示し、本来業務にかかる費用は運用指針に基づき事業費と本部費に区分する必要があります。
この区分経理は、一般企業の会計にはない医療法人会計基準特有の処理といえます。
注記・附属明細表・純資産変動計算書
会計方針や重要な後発事象などを記載する注記に加え、医療法人会計基準の適用法人には純資産変動計算書と附属明細表の作成義務もあります。
附属明細表では、有形固定資産や引当金の増減明細などを記載します。
事業報告書・財産目録・関係事業者との取引状況報告書との関係
医療法人会計基準に基づく貸借対照表・損益計算書は、医療法上すべての医療法人に作成が求められる事業報告書等(事業報告書、財産目録など)の一部として位置づけられます。
適用対象法人はこれらに加えて、関係事業者との取引状況に関する報告書の作成も必要です。
「誰が何を作成し、どの書類を都道府県に届け出て、どの書類を公告するのか」を整理すると、次のようになります。
| 書類 | 作成義務者 | 都道府県への届出 | 公告義務 |
|---|---|---|---|
| 事業報告書・財産目録 | すべての医療法人 | 必要 | なし |
| 貸借対照表・損益計算書 | すべての医療法人(医療法人会計基準への準拠は適用対象法人のみ) | 必要 | 適用対象法人のみ必要 |
| 関係事業者との取引状況報告書 | 該当する取引がある医療法人 | 必要 | なし |
| 注記・附属明細表・純資産変動計算書 | 医療法人会計基準の適用対象法人 | 必要(計算書類の一部として) | なし |
なお、都道府県に届け出た書類は、適用対象かどうかにかかわらず誰でも閲覧を請求できる点にも留意しておきましょう。
医療法人会計基準で押さえるべき特有の会計処理
医療法人会計基準では、一般企業の会計にはない、または取り扱いが異なる会計処理がいくつかあります。
- 退職給付会計とリース会計(負債総額200億円未満の簡便法)
- 固定資産の減損・資産除去債務
- 関係事業者との取引の開示(1,000万円以上かつ事業収益の10%超)
- 引当金・特定目的積立金・圧縮記帳
それぞれのポイントを解説します。
退職給付会計とリース会計(負債総額200億円未満の簡便法)
医療法人会計基準では、退職給付引当金の計上やリース資産・リース債務のオンバランス処理が求められます。
ただし前々会計年度末の負債総額が200億円未満の医療法人については、実務負担を軽減するための簡便的処理が認められています。
具体的には、対象となる会計年度に開始した所有権移転外ファイナンス・リース取引であれば従来どおりの賃貸借処理を継続できるほか、退職給付引当金についても簡便的な計算方法の適用が可能です。
また、負債総額の要件にかかわらず、一契約あたりのリース料総額が300万円未満の少額なリース取引については、規模を問わず賃貸借処理が認められています。
固定資産の減損・資産除去債務
固定資産の時価が著しく下落した場合の減損処理や、資産除去債務の会計処理についても、Q&Aに沿った対応が求められます。
とくに取得時期が古い不動産を保有している医療法人では、減損の要否を確認しておく必要があります。
関係事業者との取引の開示(1,000万円以上かつ事業収益の10%超)
理事長の親族が経営する法人(いわゆるMS法人)など、関係事業者との取引金額が一定基準(1取引あたり1,000万円以上、かつ事業収益の10%を超える場合など)に該当するときは、取引の内容を注記および報告書で開示する必要があります。
ガバナンスの観点からも重要性の高い項目です。
引当金・特定目的積立金・圧縮記帳
このほか、賞与引当金や貸倒引当金といった各種引当金の計上、特定の目的のために積み立てる特定目的積立金の取り扱い、補助金を受け取った際の圧縮記帳の処理なども、医療法人会計基準で定められたルールに沿って行う必要があります。
公認会計士監査・公告・届出のスケジュール
医療法人会計基準の適用対象法人には、公認会計士または監査法人による監査に加え、届出・公告の義務も課されます。
会計年度終了後2か月以内に計算書類を含む事業報告書等を作成し、3か月以内に都道府県知事へ届け出るとともに、貸借対照表・損益計算書を公告しなければなりません。
届出を怠ると、医療法第93条に基づき20万円以下の過料の対象となる可能性があります。
監査法人の選定には時間を要するため、決算期の数か月前から準備を始めておくと安心です。
経営情報等報告制度(MCDB)と最新動向
令和5年8月以降に決算期を迎える医療法人には、事業報告書等の届出とは別に、収益・費用の内訳などを含む「経営情報等」を都道府県へ報告する経営情報等報告制度への対応も必要です。
報告様式は病院会計準則をベースに設計されており、令和7年4月からはWAM-NET上の新システム「MCDB」で報告します(制度の概要はこちら)。
医療法人会計基準本体の大きな改正は2024〜2026年時点ではありませんが、企業会計の新リース会計基準(2027年4月適用予定)や、日本公認会計士協会の非営利法人委員会実務指針第39号の改正(2025年2月)など、周辺動向にも注意しておきましょう。
医療法人会計基準への対応を進めるためのポイント
医療法人会計基準への対応をスムーズに進めるためには、次のようなポイントを押さえておくことが重要です。
- 適用対象の判定と会計方針の決定を早めに行う
- 会計システム・クラウド会計の整備
- 経理体制の強化・アウトソーシングの活用
それぞれ詳しく解説します。
適用対象の判定と会計方針の決定を早めに行う
直前会計年度の負債総額・事業収益をもとに適用対象かどうかを早めに確認し、引当金の計上方法やリース取引の処理、本部費の配賦方法といった会計方針を、遅くとも期首までに固めておくことが望まれます。
監査対応が必要な場合は、監査法人・公認会計士の選定も早めに着手しましょう。
会計システム・クラウド会計の整備
事業損益の3区分や事業費・本部費の配賦など、医療法人会計基準特有の区分経理に対応できる会計システムの整備も欠かせません。
レセプトコンピュータなど医事会計システムとのデータ連携も含めて、クラウド会計が求められる理由や会計ソフトの選び方を踏まえたシステム選定を進めることをおすすめします。
経理体制の強化・アウトソーシングの活用
医療法人会計基準への対応によって、経理担当者の業務負担が増える医療法人も少なくありません。
院内の人員だけでは対応が難しい場合は、経理代行会社の比較ポイントや経理BPOの活用方法を踏まえ、医療法人の会計に詳しい専門家や経理代行サービスの活用も選択肢として検討してみましょう。
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医療法人会計基準への対応では区分経理や引当金計算など専門性の高い経理知識が求められる一方、経理業務が事務長など特定の担当者に集中しやすく、属人化・ブラックボックス化が起きやすいという課題もあります。
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経理体制の見直しを検討する際は、サービス内容や料金プランもあわせてご確認ください。
医療法人会計基準を正しく理解し、対応できる経理体制を整えよう
医療法人会計基準は、一定規模以上の医療法人に貸借対照表・損益計算書の作成と公認会計士監査を義務付ける会計ルールであり、事業損益の区分経理や簡便法の適用要件など、一般企業の会計にはない特有の論点が数多く存在します。
まずは自法人が適用対象になるかどうかを直前会計年度の数値で確認し、対象となる場合は会計方針の決定やシステム整備を早めに進めることが、決算・監査対応をスムーズに進める鍵となります。
経営情報等報告制度など関連する制度変更も踏まえ、対応できる経理体制を計画的に整えていきましょう。
医療法人会計基準への対応で経理体制の見直しを検討する際は、CASTER BIZ accounting for 医療法人も選択肢の一つとしてぜひご検討ください。






