公開日 2025.01.08 更新日 2025.01.22

IPO準備は内部統制が必須?その理由や目的を解説

会社を営む経営者様のなかには、株式を初めて公開市場で売り出す、IPOを一つの目標としている方も多いのではないでしょうか。
そしてこのIPOを目指すうえで、避けては通れない上場審査を通過するためには、自社の“内部統制”が整備されているか否かが大きく関わっています。

 

本記事では、IPO準備企業にも内部統制が求められる理由や目的を解説します。
事前の準備をきちんと行い、IPOを叶えるためにぜひ参考にしてみてください。

 

関連記事:スタートアップ企業がIPO準備期間に行うべきことを解説!

内部統制とは?

内部統制とは、事業活動に関わる非正規雇用を含むすべての従業員が、守らなければならない規則や仕組みのことです。
上場企業には、金融商品取引法で定められている内部統制報告制度により、この内部統制の評価と監査が義務づけられています。

 

内部統制が重視されるようになった背景には、日本企業に相次いで起きた不祥事があります。
たとえば、取引で生じた損失を隠すために虚偽の残高証明書を作成した事件や、指定添加物を使用している事実を公表しなかった事件などが代表的な事例です。

 

こうした不祥事の発生を受け、企業や組織としての信頼を確立するために、厳格に内部統制を整備することが求められています。

IPOを目指す企業に内部統制が必要な理由

上場企業にとって内部統制が重要なことはわかりましたが、なぜIPOを目指す段階の企業にも求められるのでしょうか。
その理由は、上場審査の項目に“内部統制の整備”が含まれているからです。
IPOを目指す企業も、上場前から内部統制をきちんと整備し、準備しておく必要があります。

 

ただ、上場申請前の段階で内部統制報告書の提出が求められるわけではないことは、ご留意ください。
つまり内部統制の整備は、上場審査を通るために必須項目ではありますが、義務として諸機関に内部統制報告書を提出する必要はないということです。

 

なお、新規で上場してから3年間は、内部統制報告書の監査証明が免除されますが、あくまでも監査証明のみであり、報告書は提出しなければなりません。

上場後に提出する内部統制報告書とは?

ここでは上場後のことも視野に入れ、上場企業に義務づけられている、内部統制報告書について詳しく説明します。
内部統制報告書とは、内部統制が正しく機能しているかどうかという観点から、経営者が公正に評価し、その結果を報告する書類です。

 

内部統制報告書は、金融庁が定めた項目ごとに評価し、開示する必要があります。

 

【内部統制報告書の規定項目】

  • 財務報告に係る内部統制の基本的枠組みに関する事項
  • 評価の範囲、基準日及び評価手続に関する事項
  • 評価結果に関する事項
  • 付記事項
  • 特記事項

上記以外にも、内部統制の有効性を評価するにあたって、重大な影響を及ぼす事象が発生した場合や、事業年度後に不正を発見して是正した場合は、付記事項として記載します。

 

参照元:金融庁

IPO準備企業における内部統制への対応時期は?

IPO準備企業は、上場申請する事業年度の、その直前の事業年度には内部統制報告書を作成できるプロセスを経験しておくのが理想です。

 

IPOの準備を進めていくうえでは、その前後の期間を3段階に分けて考えます。
上場申請を行う事業年度を基準とし、申請前の直前々期と直前期、申請する年の申請期の合計3期です。

 

IPO準備企業は、上場直後の決算のタイミングで、内部統制報告書の提出が義務づけられています。
そのことを加味すると、直前期には、内部統制報告書を作成する過程を経験しておく必要があります。

 

したがって、直前々期には内部統制への対応に着手し、直前期の決算では内部統制報告書を作成できるように、整備や運用を開始しなければなりません。

内部統制の整備は直前期までに完了させ、上場後の申請期には、運用と評価に専念できるようにしておくのが望ましいとされています。

 

関連記事:上場準備に要する期間はどのくらい?経理業務の重要性も解説

内部統制の目的

IPO準備企業が内部統制を整える理想的なタイミングがわかり、IPO実現に向けて具体的な今後の行動がみえてきたのではないでしょうか。
ここからは、さらに踏み込み、内部統制の目的について解説します。

 

金融庁では、以下を内部統制の目的として掲げています。

 

【内部統制の目的】

  • 業務の有効性及び効率性
  • 財務報告の信頼性
  • 事業活動に関わる法令等の遵守
  • 資産の保全

これらの目的の内容をきちんと理解したうえで、より効果的に整備を進められるようになりましょう。

 

参照元:金融庁

業務の有効性及び効率性

経営資源を有効活用し、効率的に業務を進められるように改善していくことが、内部統制の目的の一つとして挙げられます。

 

内部統制の整備が進めば、情報共有が活性化することによって、“ヒト・モノ・カネ・情報”といった経営資源の分配がうまく行えているのか、視認しやすくなります。
そうして、限られた資源を有効的に分配できるようになり、業務の効率が向上し、ひいては事業全体の目標達成につながるのです。

財務報告の信頼性

内部統制には、財務諸表の適正な作成を促し、それに基づいた財務報告を行うことで、株主や取引先からの信頼を得る目的もあります。

 

財務報告は、組織内外すべての人が、自社の財務状況を確認するための重要な情報です。
万が一不正や虚偽があれば、株主や投資家、顧客に対して不信感を与えてしまうでしょう。

 

この点は、内部統制の整備を進めていくことで、作成した財務諸表が正真正銘、正確なものであると多くの利害関係者に示せます。

事業活動に関わる法令等の遵守

事業活動を行ううえで法令を守るのは当然のことですが、内部統制を整えると、これまで以上に法令遵守の徹底を図れます。

 

もし、法に触れるような行為をした場合、相応の罰則を受けるのはもちろん、世間から批判を浴びせられるでしょう。
こうしたリスクを軽減し、自社のさらなる発展を図るためには、法令遵守の体制を構築することが大切です。

その際は親会社だけでなく、目の届きにくい子会社にも、法令違反を未然に防げる内部統制の整備が求められます。

資産の保全

自社の資産を安全に守ることも、内部統制を整えるべき理由の一つです。

 

ここでいう資産とは、お金だけでなく人材や設備、顧客情報など、さまざまなものが含まれます。
企業にとって大事なこれらの資産は、正当な手続きおよび承認を得て、取得や活用、処分する必要があります。
そしてこれらの管理のときに重要なのが、内部統制の整備なのです。

内部統制に必要な要素

内部統制の整備を進めていくうえでは、目的だけでなく、体制を構成する要素に対しても理解を深めておきたいところです。
金融庁では、内部統制の基本的要素として、以下の6つが述べられています。

 

【内部統制の基本的要素】

  • 統制環境
  • リスクの評価と対応
  • 統制活動
  • 情報と伝達
  • モニタリング
  • IT(情報技術)への対応

自社の状況と比較しながら、ご覧ください。

 

参照元:金融庁

統制環境

“統制環境”とは、内部統制の基本的要素のなかでも基礎となる要素です。
各企業によって異なる、人事・職務の制度や価値基準などの総称ですが、“社風”といえば、よりイメージしやすいのではないでしょうか。

 

それぞれの企業で定められたあらゆる基準は、そのほとんどが最高責任者の姿勢や意向を表したものとなっています。
ですが、良い統制環境を構築するためには、経営陣だけでなく、全従業員に制度や価値基準を浸透させることが大切です。

リスクの評価と対応

事業目標の達成を目指す過程で起こりうるリスクに対し、適切な措置を講じていくプロセスを、金融庁では“リスクへの評価と対応”として要素の一つに定めています。

 

ここで指すリスクには具体的に、市場競争の変化や資源相場の変動、あるいは天災といった外部要因と、会計処理のミスやシステムの故障などの内部要因があります。
この両面のリスクに適切に対応できなければ、最悪の場合、企業の存続にも影響を与えてしまうため、重要な要素の一つとして挙げられているのです。

統制活動

“統制活動”は、内部統制の不正防止と可視化を図るために欠かせない要素です。
全従業員が会社のルールや経営者の指示をきちんと理解し、適切に実行できるようにするための仕組みづくりを指します。

 

経営者には、ミスや不正のリスクを減らすために、各従業員の権限と職責を明確にし、適切に業務が遂行されるような体制の構築が求められます。

情報と伝達

業務に必要な情報が、全従業員に正しく伝わり、理解してもらえる体制を構築するために、設定された要素が“情報と伝達”です。

 

事業の運営に関わるさまざまな情報が、関係者に正しく伝達されると、不正や認識の齟齬といった問題を未然に防ぐことができます。
また、株主や取引先といった組織外の関係者に対し、必要な情報を適時かつ適切に、共有・開示することにもつながります。

モニタリング

“モニタリング”とは、整備した内部統制がきちんと機能しているのか、継続的に監視・評価・是正することです。

 

金融庁が定めるモニタリングには、“日常的モニタリング”と“独立的評価”の2種類があります。
日常的モニタリングとは、ある従業員が実施した業務について、然るべき管理者が評価することを指します。

一方、独立的評価は、自社内の監査役や内部監査部門にて定期的に行われる監査です。
日常的モニタリングでは気づけないような、経営上の問題の発見につながります。

 

企業はこの2つのモニタリングを実施することで、継続的に、かつ漏れなく正確に内部統制の機能の有無を確かめられるというわけです。
また、万が一不備が発見された場合の、方針や手続きもあらかじめ定めておくとよいでしょう。

IT(情報技術)への対応

現代において、事業を円滑に運営していくためには、ITへの対応が欠かせないものです。そこで、内部統制の基本的要素としても、“ITへの対応”が挙げられています。

 

内部統制の目的を達成するために、ITを正しく導入し、各種手順の可視化や操作方法のマニュアル作成といった適切な対応が、企業には求められます。

IPO準備企業が上場承認されるための基準

上場申請が承認されるためには、証券取引所が定める基準をクリアしなければなりません。
この基準は、定量的な評価の“形式基準”と、定性的な評価の“実質基準”に分かれます。

 

【上場審査の基準】

  • 形式基準
  • 実質基準

それでは以下で、詳しく解説します。

形式基準

上場申請するにあたり、最低限満たさなければならない、定量的な基準を形式基準といいます。
まずは、プライム・スタンダード・グロースの、3つの市場区分の代表的な基準を押さえておきましょう。

 

市場区分ごとの形式基準

項目 プライム市場 スタンダード市場 グロース市場
株主数 800人以上 400人以上 150人以上
流通株式数 20,000単位以上 2,000単位以上 1,000単位以上
流通株式時価総額 100億円以上 10億円以上 5億円以上
時価総額 250億円以上 10億円以上 5億円以上
流通株式比率 35%以上 25%以上 25%以上
財政状態 連結純資産50億円以上かつ単体純資産の額が負でないこと 連結純資産の額が正であること

これらの基準をもとに、上場企業としての数値基準を満たしているのかどうかを審査されます。

 

参照元:日本取引所グループ

実質基準

上記の形式要件をクリアした企業は、実質基準を受けられます。
実質基準では、証券取引所により定性的な基準が5つ定められています。

 

【実質基準の内容】

  • 企業の継続性及び収益性
  • 企業経営の健全性
  • 企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性
  • 企業内容等の開示の適正性
  • その他公益又は投資者保護の観点から東証が必要と認める事項

上場するためだけでなく、企業には常に公正で誠実な経営が求められるものです。
そうした背景のもと、自社がどのような状態であれば実質基準をクリアできるのか、以下にまとめましたので、ぜひ参考にしてみてください。

 

参照元:日本取引所グループ

 

■企業の継続性及び収益性

 

“企業の継続性及び収益性”では、事業が継続的に行われ、かつ利益を生み出しているのかということが審査されます。
さらにその際には、利益を今後も継続して生み出せるのかという、将来性もチェックされますので、この点も念頭に置いておきましょう。

 

■企業経営の健全性

 

“企業経営の健全性”では、ルールをきちんと守り、正しい企業経営が行われているのかどうかを評価されます。
たとえば、法律を遵守した業務が行われているのか、子会社は自らの裁量で事業を行っているのか、そして役員が親族のみで構成されていないかなどが審査内容に含まれます。

 

■企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性

 

企業経営において、法令違反や不祥事が起きないような体制が構築されているかという点も、実質基準では確認されます。
これを、“企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性”といいます。

 

法令違反や不祥事は、そのすべてが故意的なものとは限りません。
法律を知らなかったがゆえに発生してしまうケースもあるため、そのような事態にならないように、自社内の管理体制を整えることが大切なのです。

 

■企業内容等の開示の適正性

企業が実際に取り組んでいる業務内容を、適正に開示できるかどうかをチェックするのが、“企業内容等の開示の適正性”です。
IPOを目指すためには、投資家が正しい判断を下すために必要な情報を、定められた時期に不備なく開示できる体制の構築が求められます。

 

■その他公益又は投資者保護の観点から東証が必要と認める事項

“その他公益又は投資者保護の観点から東証が必要と認める事項”は、証券取引所が、確認すべき事象であると判断した場合に適用される基準です。

 

たとえば、株主の権利に影響を与えるような開示状況になっていないか、また、事業活動に影響を与える紛争が行われていないかなどが挙げられます。
そのほか投資家を保護する観点から、誠実な経営が行われているのか審査されます。

 

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上場申請時の審査項目に含まれるため、IPO準備企業も内部統制が必要

今回は、IPO準備企業が、内部統制を行わなければならない理由や目的を解説しました。

 

内部統制の整備は上場審査の項目に含まれており、かつ上場直後の決算において内部統制報告書を提出しなければならないため、IPO準備企業も行う必要があります。
きちんと整備すれば、業務の有効性や効率性の向上が見込めるほか、徹底した法令遵守にもつながるでしょう。

 

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