なぜ上場に失敗するのか?上場準備期間に行うべきことを解説
「自社をもっと成長させたい」「資金調達の手段を増やしたい」という思いから、上場を目指している経営者様も多くいらっしゃるでしょう。
ですが、上場は決して容易なものではありません。
成功させるためには、徹底した準備と計画的な取り組みが必要です。
本記事では、上場準備企業が上場に失敗してしまう理由や、成功させるための対策方法を解説します。
上場を実現し、自社を活性化させたい経営者様は、ぜひ最後までご覧ください。
上場準備企業が上場に失敗してしまう理由
「上場に失敗してしまった」とひと口に言っても、その理由はさまざまです。
やむを得ない事情で実現に至らない場合もあれば、準備不足によるものもあります。
【上場に失敗してしまう理由】
- 内部統制に不備があるため
- 業績の持続的な成長ができていないため
- 制度会計の基準を達成できないため
- 企業のレピュテーションが下がるため
- 上場が延期されるため
まずは以下で、上場が失敗に終わる主な理由を5つご紹介します。
内部統制に不備があるため
上場に失敗してしまう理由の一つとして、内部統制の不備が挙げられます。
内部統制とは、企業活動において、全従業員が守らなければならないルールや仕組みのことを指します。
上場審査の項目に含まれているため、整備が十分に行き届いていないと、上場に失敗する要因となりかねません。
内部統制に不備が生じる主な要因として、整備面または運用面のいずれかに問題が起きていることが考えられます。
整備面の不備は業務のチェック体制が十分に整っていないケースであり、運用面の不備は、内部統制はきちんと整備されているものの、それが実行されていないケースです。
これらの不備は、内部監査時に明るみに出るパターンが多いとされています。
上場準備企業は、“J-SOX”とよばれる内部統制報告制度に基づいて、自社の内部統制を評価し、報告したうえで監査を受けます。
この段階で内部統制に不備が見つかった場合は、審査にはじかれてしまうのです。
業績の持続的な成長ができていないため
準備期間中に自社の業績が傾き、成長性が維持できないことも、上場に失敗する理由の一つです。
企業の成長を妨げる原因には、商品やサービスの需要の減少や、市場競争の激化などによって引き起こされる業績不振が挙げられます。
また業績不振だけでなく、経営戦略そのものが崩れ、経営難に陥るケースもあります。
こうした原因により、企業の成長が見込めなければ、投資家に興味を示してもらえないだけでなく、上場の妨げになりかねません。
なお、上場後においても、業績を維持するための時価に関する規定が設けられています。
たとえばグロース市場では、上場してから10年経過後に時価総額が40億円を維持できていない場合、上場維持基準以下と判断されて上場廃止となります。
したがって、たとえ上場できたとしても、継続できずに結果的に失敗に終わってしまう可能性もありますので、引き続き注意が必要です。
制度会計の基準を達成できないため
上場企業の制度会計基準に適合できずに、上場が失敗に終わるケースもあります。
制度会計とは、会社法や金融商品取引法で定められた基準に従って行う会計のことです。
自社外の利害関係者への情報提供や、投資を判断する機会の確保といった趣旨があり、上場企業を中心に適用されます。
この制度会計の基準を達成できない要因に挙げられるのは、会計処理の不備や財務報告の開示不足、情報の改ざんといった内部不正などです。
投資家は企業の財務情報をもとに投資判断を行うため、上場企業には正確かつ信頼できる財務情報の提供が求められます。
同様に、上場準備企業においても、この制度会計基準を満たせるような会計フローができていなければ、監査で指摘されて上場が遠のいてしまいます。
企業のレピュテーションが下がるため
企業のレピュテーションの低下も、上場に失敗する理由の一つに数えられます。
レピュテーションとは、外部からみた企業の評価や信頼度、評判のことです。
市場参加者や投資家にとってその企業を応援するかどうかを判断する、非常に重要な指針となります。
レピュテーションが下がる原因はさまざまですが、代表的な例として、企業の不正行為や社会的な責任の怠慢、製品の品質問題などが挙げられます。
こうした事象が起きると企業の評判が落ち、投資家をはじめ、世間からの信頼を失ってしまうでしょう。
また決定的な違反ではなかったとしても、商品やサービスにおいて、なんらかのトラブルが発生すると情報が拡散され、レピュテーションの低下につながることもあります。
ですから、情報社会であることを肝に銘じ、法令遵守はもちろん、サービス面においても高い評価を維持したいものです。
上場が延期されるため
上場が延期され、実施できないまま失敗に終わってしまうこともあります。
上場が延期される理由としては、市場状況の不安定さからなる不可抗力によるものと、調整の遅れといった自社の都合によるものの2つが考えられます。
どちらの場合にしても計画に遅延が生じると、その期間中の企業の成長が制限されるので、投資家の関心が多かれ少なかれ、薄れてしまうことは避けられません。
そのため、計画の段階で、適切な条件や時期を見極めた準備が大切です。
【期間別】上場準備企業が上場するために取り組むべき内容
なぜ上場準備企業が上場に失敗してしまうのか、その理由を押さえられたのではないでしょうか。
ここからはそれらを踏まえて、上場を叶えるために取り組むべき内容を、期間ごとに分けて説明します。
上場申請までのスケジュールは、以下の4つの期間に分けられます。
【上場申請までのスケジュールにおける各期間】
- 直前々期以前(N-3)
- 直前々期(N-2)
- 直前期(N-1)
- 申請期(N期)
上場申請に向けた、今後の具体的なスケジュールの立案にお役立てください。
直前々期以前(N-3)
上場申請を実施する直前々期以前には、上場の実現に向けてサポートしてくれるコンサルタントや、自社外のチェック機関である監査法人の選定を済ませておきましょう。
そもそも上場するということは、経営者が望んだタイミングに確実に実現できるほど、容易なものではありません。
上場の準備には事業計画の策定や、それに必要なデータ収集など、通常の業務にプラスして取り組むべき多くの作業があります。
また、客観的に企業をみてみると、上場を実施すべき状況にない可能性もあります。
こうした、自社では対応の難しい実務面のサポートを行い、適切な助言をしてくれるのがコンサルタントです。
早い段階でコンサルタントに就いてもらうことで、上場までの道のりを首尾よくいくように整えてくれます。
同様に早いうちに監査法人の選定をしておけば、監査法人によるショートレビューを受け、上場準備の時点での課題を事前に洗い出すことができます。
関連記事:IPOコンサルタントの役割は?おすすめの企業5選も紹介
直前々期(N-2)
直前々期には、監査法人によるショートレビューで浮き彫りになった、課題の改善に向けて動き出していなければなりません。
また、会社法の規定に従った手続きや内容により、取締役会や株主総会を開催する必要もあります。
上場申請の2期前にあたるこの時期から、金融商品取引法による監査も開始されるため、上記の内容は必ず実施するように努めてください。
直前期(N-1)
直前期になると、上場準備もいよいよ大詰めです。
株式公開に向けて市場の選定や事業計画の立案、書類作成などを進めていきます。
またこの時期は、資本政策の見直しと改善を行うことができる最後の機会です。
上場審査も始まりますので、社内体制の規定や運用を完全なものに仕上げておく必要があります。
申請期(N期)
上場申請期には、公開会社になるために、定款を変更して株式譲渡制限をなくすことが求められます。
またこの時期に、証券会社による上場審査が行われます。
内部統制やコンプライアンス遵守の体制が整っているかどうかなどが審査されるなか、多くの質問事項に対して迅速な回答が求められるため、万全の準備が必要です。
関連記事:上場準備に要する期間はどのくらい?経理業務の重要性も解説
上場準備企業が上場を成功させるための対策
上場申請に向けて、大まかなスケジュール感をつかめたのではないでしょうか。
上場を成功させるためには、スケジュールの期間ごとに行うべき内容だけでなく、さらに具体的な対策の把握も必要です。
【上場を成功させるための対策】
- 権限を分散化させる
- 業務フローを見直す
- 上場予定の市場を確認する
- 上場を最終目標としない
- 上場に向けた人材配置を行う
自社にとっての効果的な対策は何か、現状と照らし合わせながらご覧ください。
対策①権限を分散化させる
上場を成功させるための対策として、まずは内部統制の整備を行い、職務の権限を分散させる必要があります。
ベンチャー企業やスタートアップ企業では、経営陣に権限が集中しており、一部の人員のみで経営方針の決定を進めているケースが多いものです。
権限が一部に集中した状態のまま、上場準備のために管理体制を厳しくすると、経営の自由度が落ちてしまうほか、業績の悪化にもつながりかねません。
このような場合には、内部統制を整備することで権限を分散化できます。
そのうえ、経営の管理(マネジメント)や監視(モニタリング)の強化が図れます。
適切に分散や強化すれば、業績の向上も期待できるので、段階を踏んだ管理体制や組織体系の整備が大切です。
関連記事:スタートアップ企業がIPOするメリットとデメリットとは?準備期間に行うべきことを解説!
対策②業務フローを見直す
経営者が上場を明確な目標として設定した時点で、業務フローを見直し、効率化を図ることも重要です。
業務フローを見直す際は、従業員ごとに認識の齟齬が生じないよう可視化し、各段階の管理者がどのような判断基準で意思決定を行っているのか、明確にする必要があります。
また、会計業務においては、どのように取引が処理されて書類に計上されているのか、チェックの過程を一つひとつ分析できる体制を構築しておくことが肝要です。
対策③上場予定の市場の基準を確認する
上場を目指すにあたって、上場予定の市場の基準を確認するのは必須事項です。
上場審査の基準には、定量的な評価の“形式基準”と、定性的な評価の“実質基準”の2種類があります。
そしてこれらの基準は、プライム市場・スタンダード市場・グロース市場といった、証券取引所が定める、それぞれの市場区分によって異なります。
上場予定の市場区分の基準を調べ、それを満たすように準備することは、“上場審査を通過するため”の、当然の責務に思えるでしょう。
ですが、それだけではなく、投資家の関心を引き、上場の成功を後押ししてもらえる効果も得られます。
そうした意味でも、あらかじめ把握し、それに沿った準備を行うことが非常に大切なのです。
対策④上場を最終目標としない
上場を成功させるためには、上場を最終目標としてはなりません。
投資家は、経営者の考え方に賛同し、今後の成長が期待できると判断した企業に投資します。
そのため経営者は、投資家の期待に応えられるように、上場後の事業計画も正確に作成し、実行することで、企業を成長させつづけるように努める必要があります。
その結果、上場の準備段階ですでに盤石な体制を構築することにつながり、上場廃止や株価の下落といった上場の失敗を避けられるようになるわけです。
対策⑤上場に向けた人材配置を行う
上場を成功させるためには、上場に向けたプロセスを把握しており、かつ自社の課題を見極め、解決に向けて実行できる人材の採用や配置も求められます。
上場を目指す過程では、内部統制の整備をはじめとした、解決しなければならないさまざまな課題が見えてくるでしょう。
こうした課題を適切なスケジュールで管理し、解決に向けて取りまとめられる存在というのは非常に重要です。
経理やファイナンス、法務など、必要なスキルも多岐にわたるため、社内での教育や新規採用が難しい場合には、外部コンサルタントとの早めの連携をおすすめします。
上場に際しての注意点
ここまでお伝えした内容で、自社が上場する目的を再確認するとともに、早急に対策すべき点の気づきにつながっていたら幸いです。
上場に向けて取り組むべきことが見えてきたところで、ここからは、上場を目指すうえで押さえておきたい注意点を3つお伝えします。
【上場に際しての注意点】
- 申請には時間がかかる
- 上場準備には膨大な作業が発生する
- 監査の準備では不備がないようにする
それでは、一つずつ詳しく説明します。
注意点①申請には時間がかかる
上場申請を行うまでの準備期間は、一般的に3年程度かかるとされています。
なぜなら、自社内の管理体制の構築や資本政策の策定に多くの時間を要するためです。
この事実を知り、「結構時間がかかるな……」と思われた経営者様も、いらっしゃるでしょう。
しかし、この期間には、非常に多くのタスクをこなさなければなりません。
慎重にスケジュールを立てないと、「思いのほか時間が足りない」という状況にもなりかねませんので、時間的な余裕をもって上場準備に取り組むことが大切です。
注意点②上場準備には膨大な作業が発生する
上場の準備では、膨大な量のタスクをこなさなければなりません。
内部体制の強化や監査報告書の作成、財務情報の整理など、多くの作業を一つひとつ、限られた期間で進めていく必要があります。
なお、上記で挙げたものはあくまでも大枠であり、実際の業務は多岐にわたります。
たとえば内部体制の強化では、内部統制の確立や組織の改善、コンプライアンスの整備が必須です。
財務情報の整理ですと、財務報告書の作成や、過去数年間の財務データの収集・分析などが挙げられます。
社内外問わず多くの人がそれぞれの役割をもって、これらの準備を遂行しなければならないため、それだけ時間や工数がかかると認識しておきたいところです。
注意点③監査の準備では不備がないようにする
監査は、上場を目指すにあたって非常に重要な部分であり、必ずクリアしなければならない事項です。
監査に必要な書類は、用意するのにも相応の時間がかかりますし、万が一提出後に不備が発覚しても、容易に修正できるものではありません。
さらに、監査での会計ミスは、上場の失敗に直接的につながる可能性があります。
ただでさえ余裕のない上場準備ですが、だからこそ慌てず慎重に行いたいものです。
上場準備企業に欠かせない反社チェックとは
上場準備企業としては、上場審査の項目の一つである、反社チェックに関する理解も深めておかなければなりません。
反社チェックとは、上場準備企業が反社会的勢力とは無関係かどうか見極めるための、上場審査の項目の一つです。
反社会的勢力とされる組織には、指定暴力団や準暴力団、暴力団関係企業が挙げられます。
どれだけ滞りなく準備を進めたとしても、自社内や取引先、申請会社のなかに、上記に挙げた団体と関係がある人物が存在した場合、残念ながら上場は実現できません。
「自社に限って、そんなことはあるはずがない」と考える経営者様も、少なくないでしょう。
ですが、反社チェックは上場審査において避けては通れない事項ですので、他人事と捉えずに、事前にきちんと確認を行うのが賢明だといえます。
反社チェックが必要な理由
ここからは、なぜ上場審査に反社チェックが必要なのか、その理由について解説します。
反社チェックが必要な理由は、主に以下の3つが挙げられます。
【反社チェックが必要な理由】
- 企業価値を維持するため
- 反社会的勢力の資金源を遮断するため
- 社会的責任を果たすため
安心安全な社会を構築する一員として、きちんと理解を深めましょう。
■企業価値を維持するため
反社チェックには、企業価値を維持し、存続させていくためという意図があります。
反社会的勢力と取引をした場合、資金供与とみなされ、上場廃止や融資停止といった行政処分が科せられます。
こうした企業にとっての致命的ダメージの回避を図るためにも、反社チェックは不可欠です。
■反社会的勢力の資金源を遮断するため
反社会的勢力の資金源を遮断するためにも、反社チェックは必要です。
日本では、すべての都道府県で暴力団廃止条例が施行されており、反社会的勢力を排除するよう動いています。
このように社会全体で排除に向けて動くことで、反社会的勢力の資金源を断ち、存続できない状態にしていくのが重要だと捉えられています。
■社会的責任を果たすため
反社チェックが設けられている理由には、都道府県に定められた条例を守り、社会的責任を果たすことも挙げられます。
繰り返しになりますが、すべての都道府県では地域の人々の安全や平穏を守るために、暴力団廃止条例が施行されています。
この条例では、企業に対してもあらゆる努力義務が課せられており、反社会的勢力の排除の役割を担うことは、こうした社会的責任を果たすためでもあるのです。
内部統制の不備が上場失敗の原因に。上場準備期間中は適切な体制構築を図りましょう
今回は、上場準備企業が上場に失敗してしまう理由や、成功させるための対策を解説しました。
上場の成功を逃す原因には、内部統制の不備や業績不振、制度会計の失敗などが挙げられます。
これらの原因を解決するために、権限を分散化させたり、業務フローを見直したりすることが大切です。
また、上場準備を取りまとめられる人材の確保も、失敗を防ぐためには欠かせないポイントです。
人材の育成や確保が難しい場合は、専門のコンサルタントに上場準備をサポートしてもらうことをおすすめします。
オンライン経理のCASTER BIZ accountingでは、実務経験豊富なスタッフが、上場を準備段階からサポートしております。
上場を実現したい経営者様は、ぜひ一度ご相談ください。